まず結論:「どの補助金を使うか」より「どう組み合わせるか」が勝負
ディープテック・研究開発型スタートアップから受ける相談で最も多いのが、「どの補助金が自分に合うか分からない」というもの。
実際には、研究開発系補助金はフェーズ・規模・連携形態でかなり棲み分けられている。1つの制度を狙うのではなく、複数制度を時間軸で組み合わせることで、研究→実証→事業化のフェーズごとに異なる支援を引き出せる。
本記事では、押さえておくべき5大研究開発補助金の役割と、組み合わせ方を整理する。
5大研究開発補助金の概要
| 制度名 | 主管 | 補助上限 | フェーズ | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| NEDO中堅・中小企業イノベーション創出推進事業 | NEDO | 数千万〜数億円 | 研究→開発 | 段階的支援、ハードテック中心 |
| JST A-STEP | JST | 数百万〜1億円 | 大学発研究の事業化 | 大学発ベンチャー向け |
| SBIR推進プログラム | 中小企業庁・各省庁 | 数千万〜数億円 | 研究→実証→事業化 | フェーズ1〜3で段階的 |
| Go-Tech事業 | 中小企業庁 | 上限1億円 | 中小×研究機関連携 | 「戦略的基盤技術高度化支援事業」の後継 |
| 成長加速化補助金 | 中小企業庁 | 数千万〜5億円 | 事業拡大期 | 100億企業創出枠あり |
各制度の本質
1. NEDO中堅・中小企業イノベーション創出推進事業
ハードテック・ものづくり系が中心。素材・装置・ロボティクス・エネルギー領域に強い。NEDOプログラムオフィサー(PO)の存在が大きく、PO の評価軸を理解できているかで採択率が変わる。
段階的支援が特徴で、フィージビリティ・スタディ → 研究開発 → 実用化開発と進む構造。
2. JST A-STEP
大学発研究の事業化に特化。大学のシーズを基にしたスタートアップが本命。大学TLO(技術移転機関)との連携が前提条件に近い。
A-STEP は「フィージビリティ・スタディ」「産学共同(育成型/本格型)」「企業主体」と段階別に枠が分かれており、進捗に応じて段階的に申請する設計。
3. SBIR推進プログラム
Small Business Innovation Research(米SBIR制度の日本版)。中小企業庁主導で各省庁が指定課題(テーマ)を提示し、それに対する研究開発を公募する。
フェーズ1(フィージビリティ)→ フェーズ2(実証)→ フェーズ3(事業化)と段階的。フェーズ3では政府調達につながるケースもある。
4. Go-Tech事業(戦略的基盤技術高度化支援事業の後継)
中小企業 × 大学・研究機関の共同研究を前提にした制度。中小単独では採択されない。連携先となる大学・研究機関の関係構築が肝。
「鋳造」「鍛造」「機械加工」など、特定の基盤技術領域が指定されている年度もある。
5. 成長加速化補助金
研究開発というより事業拡大期の補助金。研究開発の成果が事業化フェーズに入った後、設備投資・販路開拓を含めた拡大計画に対応する。
100億企業創出枠は、特に成長性の高いディープテックスタートアップが狙う最大級の枠。
フェーズ別の使い分け
フェーズ1:研究シーズ段階(売上ゼロ〜数千万円)
狙い目:JST A-STEP(フィージビリティ)、SBIRフェーズ1、自治体の創業補助
規模:数百万〜数千万円
目的:技術検証・特許出願・コアチームの確保
フェーズ2:実証段階(売上数千万〜数億円)
狙い目:NEDO中堅・中小、SBIRフェーズ2、Go-Tech事業
規模:数千万〜1〜2億円
目的:プロトタイプ開発・実証実験・量産準備
フェーズ3:事業化・拡大段階(売上数億円超)
狙い目:成長加速化補助金、ものづくり補助金 グローバル枠、中小企業新事業進出補助金
規模:数千万〜5億円
目的:設備投資・販路開拓・人材確保
組み合わせ戦略の典型例
例1:大学発バイオベンチャーの場合
- 創業1〜2年目: :JST A-STEP(フィージビリティ)で技術検証
- 3〜4年目: :JST A-STEP(産学共同・本格型)で大学との共同研究を本格化
- 5年目: :NEDO中堅・中小で量産プロトタイプ開発
- 6〜7年目: :成長加速化補助金で本格的な事業拡大
例2:素材・装置系ディープテックの場合
- 1〜2年目: :SBIRフェーズ1で技術検証
- 3〜4年目: :Go-Tech事業で大学・研究機関との連携深化
- 5〜6年目: :SBIRフェーズ2で実証実験
- 7年目以降: :ものづくり補助金 グローバル枠 → 成長加速化補助金
例3:ロボティクス・AIスタートアップの場合
- 1〜2年目: :自治体の創業補助+シードVC調達
- 3年目: :NEDO中堅・中小(フィージビリティ)
- 4〜5年目: :横浜市TECH-PoC等の実証補助
- 6年目以降: :成長加速化補助金
認定コンサルの本音
「研究開発系の補助金は、制度ごとの審査基準・PO/PD(プログラムディレクター)の評価軸が大きく違う。NEDO で通る事業計画書がそのまま JST で通るかというと、別物です。」
「特にディープテックの場合、事業計画書を書くこと自体が経営者にとってハードル。技術的には正しくても、補助金審査員の言語に翻訳できていない案件が多い。」
「SBIR は政府調達につながるフェーズ3が魅力的だけど、フェーズ1からの段階を踏むので3年計画で考えるべき。」
失敗パターン:1制度に賭けすぎる
ディープテックスタートアップが陥りやすいのが、「最大規模のNEDO狙い」一本足打法。
採択率20-30%程度の制度で1本に賭けて落ちると、半年〜1年の研究開発資金がなくなる。VC調達ラウンドのバーンレートを考えると致命的。
複数制度の同時並行・段階的申請を組み立てるのが、現実的な研究開発資金確保戦略だ。
まとめ:ディープテックの補助金活用は「ポートフォリオ」
研究開発系補助金は、1つの制度を当てに行く戦いではなく、フェーズ・規模・連携形態に応じてポートフォリオで組む戦いだ。
押さえるべきは5制度(NEDO・JST・SBIR・Go-Tech・成長加速化)。それぞれの役割を理解し、3〜5年の時間軸で組み合わせる経営判断ができる経営者が、研究開発資金で詰まずに事業を伸ばせる。
ディープテックの本番は、技術ではなく資金繰りだ。
※ 本記事は2026年4月時点の各制度情報をもとに作成しています。最新の公募要領・採択動向は、各制度の公式情報をご確認ください。