賃上げ加点を「取らない」会社は減点扱いに
数年前まで、補助金の賃上げ加点は「取れたら有利」のオプション扱いだった。今は違う。
ほぼ全ての主要補助金で賃上げ表明が加点項目に組み込まれており、取らない会社は事実上の減点として扱われる構造になっている。
賃上げ加点の典型的な要件
ものづくり補助金の例
- 事業計画期間中に給与支給総額を年率+1.5%以上引き上げ
- かつ事業場内最低賃金を毎年地域別最低賃金+30円以上確保
- 表明書を提出して加点を受ける
持続化補助金の例
- 賃上げ枠:事業場内最低賃金を地域最低賃金+30円以上
- 補助上限額が引き上げられる優遇あり
事業承継・引継ぎ補助金の例
- 給与支給総額を年率+1.5%以上引き上げる計画
なぜ「標準装備」になったのか
政策的背景
- 政府の経済政策が「成長と分配」を中核に据えた
- 中小企業の賃上げが消費拡大の起点になるという政策仮説
- 補助金を「賃上げのインセンティブ」として活用する戦略
国の本音
中小企業庁の本音は「補助金を出す代わりに、賃上げをしてほしい」というディール。補助金で生産性向上→利益増加→賃上げ、というロジックを回したい。
現場の本音:賃上げ表明のリアル
① 「形式だけ表明」のリスク
賃上げ表明は計画書に書くだけでなく、3年後の実績検証がある。
未達成の場合:
- 補助金の一部返還
- 次回以降の補助金申請で不利になる可能性
- 加点取り消し
つまり、「採択されればいい」と形式的に表明するのは危険。実質的に達成できる賃上げ計画を組む必要がある。
② 「賃上げできない」会社の選択肢
業績が厳しく、賃上げが難しい会社の選択肢:
選択肢A:賃上げ加点を取らずに申請
- 採択率は下がるが、未達成リスクなし
- 計画書の他の要素で勝負
選択肢B:実現可能な範囲で表明
- 年率+1.5%は法定でない、まずは実現できる数字を
- 給与支給総額(賞与含む)でカバー
選択肢C:賃上げを前提に事業計画を組み直す
- 補助金で生産性向上→賃上げ可能に
- これが本来の制度設計の意図
③ 給与支給総額のカラクリ
「年率+1.5%」の給与支給総額は、従業員数が同じであればベースアップに相当する。ただし:
- 採用増→総額増(自然増)でも要件達成
- 賞与増(ボーナス)でも要件達成
- 一部社員のみの昇給でも、総額として達成すればOK
つまり、全社員のベースアップではない。経営者の裁量で配分を考えられる。
④ 最低賃金+30円のハードル
事業場内最低賃金(パート含む)の縛り。地域最低賃金が上がる中、+30円の維持は実は難しい。
地域最低賃金が年率5%上がる中、自社も同じペースで上げないと「最低賃金+30円」がじわじわ縮小。継続的な調整が必要。
経営者がやるべきこと
1. 賃上げ計画を「補助金の前提」として組む
補助金を取るために賃上げするのではなく、「賃上げ計画があり、それを実現するために補助金を活用する」順序で考える。
2. 給与制度を整備
「気が向いたら賃上げ」では3年達成は難しい。等級制度・評価制度・賃金テーブルを整備しておくと、計画的な賃上げが可能。
3. 生産性向上投資とセットで考える
賃上げの原資は生産性向上から。省力化投資補助金 + 賃上げ加点の組み合わせが、本来の制度活用の形。
4. 未達成時のシナリオも準備
最悪、未達成だった場合:
- 早めに事務局に連絡(隠さない)
- 一部返還の手続きに従う
- 次回申請への影響を最小化
「達成できないかも」と分かった時点で、コンサル・社労士に相談して対応策を立てる。
賃上げ加点は「無料の加点」ではない
補助金の世界では、「実態のある賃上げ計画を持つ会社が有利」という構造が定着。形式的に表明して採択を狙う時代は終わりつつある。
賃上げを経営戦略の一部として組み込めるかが、補助金活用の本質的な分水嶺になっている。
※本記事は2026年4月時点の補助金制度の一般的な整理です。具体的な要件は各補助金公式情報をご確認ください。